痛ましいほど楽園

言いたいことはありません

7割と今日

パリでスマホをスられたり、帰国して大学を卒業したりしてるうちに、春。

 

卒業旅行は、通称「パリiPhoneスられ事件」のおかげで一気に「いろいろあったな~」感が出たように思う。

古着を買いたくて治安の悪い街に行ったらものの5秒でiPhoneをスられた、ほんとにそれだけなんだけど。

さすがプロだな、スリで食ってるだけある、全然気づかなかった。

知らないおじさんが「今なんか取られてたよ!」と教えてくれて、え~ホント~?(笑)とか言ってたら、ホントに本当だった。

そのおじさんはすごく善良なおじさんで、一緒にセキュリティや警察署に行ってくれた。

聞けば、プライベートセキュリティらしい。

プライベートセキュリティって何。

私はWhat should I do?とか言いながらメソメソ泣いているだけだったので、海外で困難を乗り越えて大胆な心を身につけた、みたいなことは全然なかった。

プライベートセキュリティおじさんが「君はラッキーだよ、命が無事なんだから。携帯はまた買えばオッケー」というようなことを言って、タバコをくれた。

そういえば、泣きながらタバコを吸ったのは初めてだった。

おじさんは「どこから来たの?東京?僕はモンガーが好きなんだ」と言っていて、モンガーってなに?北海道あたりの地名か?ニッチだな...と思っていたら「マンガ」のことだった。

蚤の市でブローチを売っていた女の子も「僕のヒーローアカデミアが好き」と言っていたけれど、発音が良すぎて3回聞き返しても「ヒーローアカデミア」が聞き取れなかったことを思い出した。

結局、帰国してから保険も下りて新しいスマホも手に入った。

別にパリを嫌いになることもなくて、今年中にまた行けるといいなと考えている。 

でも、おじさんにあまりちゃんとお礼ができなかったことは未だに後悔していて(その時は人間不信がピークだったのでおじさんのこともギリギリまで警戒していた節がある)、「おじさん...どうもありがとう...命があればオッケーですね...」と毎日心のなかで唱えている。

 

そんな感じで、いいことと悪いことがバランスを取っていて、モノも人も傷つかずに生きていくことはできないなあと当たり前のことを思う。

世界中どこに行っても、やっぱり他者はかなりうんざりで、たまにサイコーなので困った。

もっとこう、99%うんざりだったら「クソ世界ファックだぜ!20代で死んでやる!」みたいな気持ちで生きられたのかも。

かなりうんざりのくせにたまに超サイコーなので手放しにポジティブにはなれないし、かといって無条件に憎しみきれない。

60歳までは生きたいな、なんて思う、中途半端な人間になってしまった。

 

何も変わらないことに少し安心して、春。

同一性の外に飛び出さざるを得ないような、そんな他者に出会いたい気持ちと、前世の双子みたいな人にしか会いたくない気持ち。

振りきれたいから早く夏が来てほしい。