煙だけを追っていた
タバコって便利な道具だなあ、とつくづく思う。
動揺を隠すためにタバコを吸うことがある。
震える手をごまかす、乱れる呼吸をごまかす、泳ぐ目をごまかす。
高校時代、3年間ずっと好きだった人に久しぶりに会った。
相変わらず、人間嫌いで、生活が下手くそだった。
カフェでピザトーストを頼んでも、注文したことを忘れたそのまま帰っちゃうような人で、危なっかしいところがあった。
私なんかより何百倍も頭が良くて、生きづらそうな人だった。
今は、彼女と同棲してるらしい。
見た目は全然変わらないのに、他人が嫌いで生活が下手くそなままなのに、それでも人を好きになって、人と生活を共有している、というのが衝撃だった。
自分以外の人に「時の流れ」を感じると、自分だけ時が止まっているような気がしてショックを受けてしまう。
私だって4年間で人を好きになって、勉強をして、働いて、こだわりを持ったり捨てたりしながら生きてきた。
私だけ変わってないなんてことはない。
絶対にない。
同じだけの時がちゃんと流れてる。
それでも、「私はいつまでもこんなんで」と思ってしまう。
うまく笑えないから、タバコを吸った。
どこを見ていいかわからなかったから、目を伏せた。
ずっと煙だけを追っていた。
タバコがあって良かったと思う。
感情の隠し方ばかりうまくなってる場合じゃない。
ずっと吸っていたから、帰りは気持ち悪くて仕方なかった。
BGM:THE YELLOW MONKEY「プライマル。」